桂皮(ケイヒ)・シナモン・ニッキの違い

「桂皮(ケイヒ)」は、桂枝湯や葛根湯など、様々な漢方薬に用いられています。

似たような風味を持つものとして、紅茶などに用いられる「シナモン」や、八つ橋で良く知られている「ニッキ」があります。

これらは混同して使われていることが良くあるのですが、実は厳密に違うものです。

ネット上でも明らかに混同した解説が散見されるため、この記事で桂皮・シナモン・ニッキの違いについてまとめてみます。

目次

最初にシナモンの定義

本記事では、シナモンを「セイロンニッケイから採れる香辛料」と定義します。

なぜこのような定義が必要なのかというと、一般的に「シナモン」という言葉は、次の2つの意味で使われることがあるからです。

  1. セイロンニッケイから採れる香辛料(狭義のシナモン)
  2. 桂皮・シナモン・ニッキをまとめて呼ぶ場合(広義のシナモン)

本記事では、混同を避けるために、1の意味で「シナモン」を使用します。

大きな3つの違い

桂皮、シナモン、ニッキには大きく3つの違いがあります。

①基原植物の違い

基原植物とは生薬の原料となる植物のことです。

桂皮、シナモン、ニッキの基原植物は、いずれもクスノキ科ニッケイの植物で、香りや風味に共通点が多いものの、それぞれ明確に別の植物として分類されています。

親戚関係のようなものと言えます。

基原植物学名
桂皮カシア
(シナニッケイ、
トンキンニッケイ)
Cinnnamomum cassia
シナモンセイロンニッケイCinnnamomum verum
ニッキニッケイ
(日本桂皮)
Cinnnamomum sieboldii

②産地の違い

産地も異なります。

主な産地
桂皮中国(南部)・ベトナム
シナモンスリランカ・インド・インドネシア
ニッキ日本

③採れる部分の違い

桂皮とシナモンが樹皮であるのに対し、ニッキは根皮です。

採取部分
桂皮樹皮
シナモン
ニッキ根皮

桂皮とは

桂皮(カシアの樹皮)を刻んだ写真

基原植物と部位

漢方薬で使われる「桂皮(ケイヒ)」は、日本薬局方に次のように定められています。

ケイヒ
Cinnamon Bark
CINNAMOMI CORTEX
桂皮
本品はCinnamomum cassia J. Presl (Lauraceae)の樹皮
又は周皮の一部を除いた樹皮である.

第十八改正日本薬局方より

「Cassia」という言葉が入っている通り、桂皮はカシアと呼ばれる植物の樹皮です。

日本国内で医薬品として認められるためには日本薬局方の基準をクリアする必要があり、漢方薬に使えるのはカシアのみです。

カシアには次のような別名もあります。

  • シナニッケイ
  • トンキンニッケイ
  • ケイ
  • (中国で)肉桂、桂木

シナ=中国、トンキン=ベトナム北部を指します。

主な産地

桂皮のほとんどは、中国南部やベトナムで栽培されたものです。

とくにベトナム産は香りや辛味が強いとされています。そのため、当店ではベトナム桂皮を採用しています。

味や香り

桂皮は辛味と甘味を持ち精油成分が豊富です。

用途

桂皮は、体を温める目的として日本では葛根湯や桂枝湯などの漢方薬に配合されています。

また食品としても流通しており、その香りの強さからカレーなどのスパイスに使われることもあります。

また比較的安価なため、シナモンとニッキの代わりに利用されることもあります。

桂皮の特徴
  • 基原植物:カシア(別名シナニッケイ、トンキンニッケイ、ケイ、肉桂(中国の呼び方)
  • 採れる部位:樹皮
  • 主な産地:中国南部、ベトナム
  • 味や香り:強い
  • 用途:漢方薬、食品(カレーなど)、シナモン・ニッキの代わり

シナモンとは

シナモン(セイロンニッケイから採れる香辛料)について解説します。

シナモンスティック(セイロンニッケイ)

基原植物と部位

「シナモン」は、セイロンニッケイ(Cinnamomi verum)の樹皮です。

セイロンとは、主な産地であるスリランカの昔の呼び名です。

主な産地

スリランカ、インド、インドネシアが主な産地です。

味や香り

上品な香りと爽快な甘味があり、辛味はほとんどないのが特徴です。

用途

上品な香りと甘味から、紅茶の香りづけやお菓子作り等に用いられます。シナモンスティックとして売られているのもよく見かけます。

ただ実際は桂皮(カシア)やニッキもまとめてシナモンと呼ばれることも多いため注意が必要です。

とくに、シナモンパウダーとして売られているものにはセイロンニッケイよりも安価な桂皮(カシア)が使われていることも多いため、購入の際はどちらが使われているか確認しましょう。

ちなみに学名の「verum」には「真実の」「本当の」という意味があります。セイロンニッケイこそ真のシナモンという意味が込められているのかもしれません。

シナモンの特徴
  • 基原植物:セイロンニッケイ(ただしカシアをシナモンとして販売されていることも多い)
  • 採れる部位:樹皮
  • 主な産地:スリランカ、インド、インドネシア
  • 味や香り:上品な香り、爽快な甘味
  • 用途:紅茶の香りづけやお菓子作り

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ニッキとは

最後にニッキについて解説します。

基原植物と部位

ニッキはニッケイ(Cinnamomi sieboldii)と呼ばれる植物が基原です。

桂皮とシナモンが樹皮を使用するのに対し、ニッキは根の皮を使用します。

ニッケイは別名「日本桂皮」「肉桂」とも呼ばれます。

学名の「sieboldii」は、日本植物の研究で有名なシーボルトに由来します。

主な産地

ニッケイは日本の植物です。

関東以西から沖縄にかけて自生しており、和歌山や高知、鹿児島などで生産が行われていましたが、近年は生産量が減っています。

味や香り

甘辛い味と強い香りが特徴とされています。

用途

昭和20年代には、ニッケイの根の細い部分を集めた「ニッキ」が駄菓子屋で売られ、子供たちに人気だったそうです。

京都の八つ橋でもニッキ味が有名ですが、成分を見ると「桂皮末」と記載されているものを多く見かけます。

近年は流通量の少ない貴重なニッキの代わりに、桂皮(カシア)を使っているケースが増えているのかもしれません。

八つ橋

かつてニッキも漢方薬の原料である桂皮の代わりに使われていましたが、生産量が少ないため現在は薬用としては使われていません。カシアだけが桂皮として現在認められています。

ニッキの特徴
  • 基原植物:ニッケイ(日本桂皮)
  • 採れる部位:根皮
  • 主な産地:日本
  • 味や香り:甘辛いような味と強い香り
  • 用途:八つ橋など(今はカシア使用?)

「肉桂(にっけい)」は中国と日本では違う植物

生薬の中には、中国と日本で同じ呼び方でも、異なる基原植物を指しているものがあります。

肉桂(にっけい)もその一例です。

これまで説明してきた通り、肉桂は

  • 中国では桂皮(カシアの樹皮)
  • 日本ではニッケイ(日本桂皮)

を指します。

「肉桂」と書かれていたら、桂皮かニッケイか注意が必要です。

肉桂

中国の肉桂:桂皮(カシア)

日本の肉桂:ニッケイ(日本桂皮)

桂皮・シナモン・ニッキの違いまとめ

これまでの情報を表にまとめてみるとこんな感じです。

スクロールできます
桂皮シナモンニッキ
基原植物の学名Cinnnamomum
cassia
Cinnnamomum
verum
Cinnnamomum
sieboldii
基原植物名カシア
=シナニッケイ
=トンキンニッケイ
=ケイ
=肉桂(中国)
セイロンニッケイ
(カシアやニッケイが
使われることも多い)
ニッケイ
=日本桂皮
=肉桂(日本)
味や香り甘味と辛味強い上品な香りと甘味甘辛い
使用部位樹皮樹皮根皮
漢方薬に使用××
製菓や料理に使用
カレーなど

紅茶・お菓子

お菓子(昔の八つ橋?)
生産地中国・ベトナムスリランカ、インド
インドネシア
日本

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桂皮(カシア)もお買い求めいただけます。
(シナモンとニッキの取り扱いはございません)

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【参考文献】
日本薬草全書(新日本法規出版)[PR]
パートナー生薬学(南江堂)[PR]
日本漢方生薬製剤協会ホームページ

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