漢方薬はお湯に溶かして飲む方が良いですか

「粉薬の漢方薬(漢方エキス製剤)はお湯に溶かしてから飲む方が良いですか?」

時々、このようにお客様からご質問をいただきます。

目次

どちらでも構わない

以前、私が調剤薬局に勤めていた頃や漢方薬局を始めた当初は、お湯に溶かして飲むようにお伝えしていました。

しかし今は「どちらでも大丈夫です」と答えています。

大切なことは自分に合った漢方薬を無理なく続けて服用すること

漢方薬は、継続的に服用することで効果を実感できるものです。そのため、無理なく続けられる方法を選ぶことが重要です。

しかし、溶かすのは毎回手間がかかることや、漢方薬に慣れてない方やお子様は、溶かした時の独特の香りや味が飲みづらいと感じることも少ないことがあります。

この場合は白湯か常温の水でそのまま飲んでいただくようにお願いしています。

なお極端に冷たい水は胃腸に負担がかかる可能性があるので、なるべく避けてください。

明確なデータがない

実は、お湯に溶かした漢方薬の方が効果が高いかどうか、はっきりしたデータがありません。

後でも述べるように、一部の実験や経験をもとに、溶かす方が効果が上がるだろうと言われているのが現状です。

実際に、溶かさずに飲んで効果が出る方もいらっしゃれば、溶かしてもあまり効果が出なかった方もいらっしゃいます。

ただし、溶かさなくても効果が変わらないという根拠もありませんので、溶かして問題なくお飲みいただけるのならそれに越したことはありません。

お湯に溶かす方が良いと言われている理由

お湯に溶かす方が良いと言われる理由はいくつかあります。

なるべく元の状態に近いほうが良いという考え

本来、漢方薬のほとんどは生薬(しょうやく)を数十分間煮出して作る煎じ薬です。

エキス漢方製剤は、この煎じ液を乾燥させ添加剤を加えて砕き、粉状にしたものです。

よってお湯に溶かして元の煎じ薬の姿にして飲む方が良いと考えるのは自然な流れかもしれません。

香りと味が胃腸の働きを刺激するという報告がある

漢方エキス製剤をお湯に溶かすと香りと味を感じやすくなり、この香りと味が消化管を刺激し運動機能を高めるとの報告があります。

漢方薬の香りが消化管運動に及ぼす影響について色素移動率を求め検討したところ、代表的な芳香性生薬である桂皮や蘇葉などに消化管運動を亢進する作用が認められました。さらに蘇葉を多く含み、風邪をひいて食欲がないときに食欲を増進させる目的で処方されます香蘇散という漢方方剤についても、香りの薬効を検討しました。その結果、香蘇散の煎剤,エキス剤ともに消化管運動を亢進させることが確認されました(図1)。また、このような漢方薬の味や香りは消化管運動を亢進させるばかりでなく、胃酸などの消化液の分泌を促すことも確認されました。

(中略)エキス剤をお湯に溶かし、味わい、香りを十分に嗅いで胃酸の分泌を高めて服用すると、強い薬理作用を有するアルカロイドなど塩基性成分の血中濃度の急激な上昇を抑えることができます。

出所:漢方スクエア 漢方服薬指導Q&A Q3 エキス剤は、お湯に溶かして飲んだほうがよいですか。天理よろづ相談所病院薬剤部 友金幹視 先生(漢方調剤研究 5(1)12-13,1997 より転載)

上記の香蘇散は胃腸の働きを良くする漢方薬です。紫蘇等の香りを嗅ぎながら服用するとより効果が胃腸の働きが良くなる可能性が書かれています。

また、消化管の運動が良くなり胃酸分泌が促進されることで胃内のpHが酸性に傾きます。

この結果、麻黄などに含まれるアルカロイドの過剰な吸収を抑制し、動悸等の副作用の軽減につながる可能性についても示唆されています。

ただし、消化管運動以外への影響については不明です。

思い込み(プラセボ効果)

薬効成分が入っていない偽薬(プラセボ)を服用しても、実際に効果があると感じる場合があります。これは、プラセボ効果と呼ばれる現象です。

漢方薬も、「溶かした方が効き目がある」「味や香りを良く感じられるので効いている感じがする」と思うことが、効き目をより良くする可能性はあります。

プラセボ効果は30-40%の人に見られることもあると大学の講義で聞いた記憶があります。なお患者さんと処方側の信頼関係も影響すると言われています。

一部の漢方薬は溶かす方が良いものがある

漢方薬の中には溶かす方が良いものがあります。

溶かすことで少しずつ時間をかけて飲むことができるためです。

たとえば以下のような漢方薬は口腔内に直接作用させるためにお湯に溶かした後、冷ましてから飲みます。

桔梗湯・立効散

喉や口腔内の炎症への直接作用を期待して、お湯に溶いた後に冷まして口の中に行きわたるように飲みます

半夏瀉心湯・黄連解毒湯

口内炎等の局所の炎症を鎮めるのに上の漢方薬と同じように使われることもあります。

小半夏加茯苓湯・半夏厚朴湯

つわりでは一度に多く飲めないことも多く、冷やして少しずつ飲む方法があります。

(参考)お湯に溶かすときの注意点

お湯に溶かすときは次のどちらかでされていることが多いと思います。

①コップに漢方薬を入れて熱湯を注ぐ
②コップに漢方薬と水をいれて電子レンジで温める

その後スプーン等でかき混ぜて溶かします。

ただし②の電子レンジで温める方法については、電子レンジのマイクロ波によって一部の生薬の成分変化が起こる可能性が報告されています。

できるのなら①の方法か、水をレンジで温めた後に漢方薬を溶かし入れる方法が良いのかもしれません。

ただし煎じ薬は電子レンジで温めていただくように指導しており、問題なく効果が出ているので、電子レンジがどこまで効能に影響があるのかは詳しいことは分かりません。

溶けにくい漢方薬

漢方薬の中にはお湯に溶けにくいものがあります。

たとえば小青竜湯です。お湯に入れてもすべて溶かすことが難しいです。

他にもあれば随時追記していきたいと難しいです

まとめ:溶かしても溶かさなくても無理なく飲めれば良い

漢方薬は、お湯に溶かしても溶かさなくてもどちらでも構いません。

たしかに溶かして飲む方が効果は高くなる可能性がありますが、きちんとした根拠があるわけでもなく、それよりも無理なく続けて飲んでいただくのが大切だからです。

ただし一部の漢方薬には溶かした後に冷やして飲む漢方薬もあるので、不明点があれば処方元や販売元に確認しましょう。

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