漢方薬はお湯に溶かして飲む方が良いですか

漢方エキス粉薬

粉薬の漢方薬(漢方エキス製剤)について、「お湯に溶かしてから飲むのが良いのですか?」と時々ご質問をいただきます。

以前、私が調剤薬局に勤めていた頃や漢方薬局始めたばかりの頃は、お湯に溶かして飲むようにお伝えしていましたが、今は「どちらでも構いません」と答えています。

目次

なぜお湯に溶かす方が良いと言われているのか

お湯に溶かす方が良いと言われるようになったのはそもそもなぜか考えてみます。
(一部個人的な解釈も入っています)

なるべく元の状態に近いほうが良いという考え?

本来、漢方薬のほとんどは生薬(しょうやく)を数十分間煮出して作る煎じ薬です。

エキス漢方製剤は、この煎じ液を乾燥させ添加剤を加えて砕き、粉状にしたものです。

よってお湯に溶かして元の煎じ薬の姿にして飲む方が良いと考えるのは自然な流れかもしれません。

香りと味が胃腸の働きを刺激するという報告がある

漢方エキス製剤をお湯に溶かすと香りと味を感じやすくなり、この香りと味が消化管を刺激し運動機能を高めるとの報告があります。

漢方薬の香りが消化管運動に及ぼす影響について色素移動率を求め検討したところ、代表的な芳香性生薬である桂皮や蘇葉などに消化管運動を亢進する作用が認められました。さらに蘇葉を多く含み、風邪をひいて食欲がないときに食欲を増進させる目的で処方されます香蘇散という漢方方剤についても、香りの薬効を検討しました。その結果、香蘇散の煎剤,エキス剤ともに消化管運動を亢進させることが確認されました(図1)。また、このような漢方薬の味や香りは消化管運動を亢進させるばかりでなく、胃酸などの消化液の分泌を促すことも確認されました。

(中略)エキス剤をお湯に溶かし、味わい、香りを十分に嗅いで胃酸の分泌を高めて服用すると、強い薬理作用を有するアルカロイドなど塩基性成分の血中濃度の急激な上昇を抑えることができます。

出所:漢方スクエア 漢方服薬指導Q&A Q3 エキス剤は、お湯に溶かして飲んだほうがよいですか。天理よろづ相談所病院薬剤部 友金幹視 先生(漢方調剤研究 5(1)12-13,1997 より転載)

上記の香蘇散は胃腸の働きを良くする漢方薬です。紫蘇等の香りを嗅ぎながら服用するとより効果が胃腸の働きが良くなる可能性が書かれています。

また、消化管の運動が良くなり胃酸分泌が促進されることで胃内のpHが酸性に傾きます。この結果、麻黄などに含まれるアルカロイドの過剰な吸収を抑制し、動悸等の副作用の軽減につながる可能性についても示唆されています。

ただし、消化管運動以外への影響については不明です。

溶かす方が熱い状態で飲める

漢方薬をお湯に溶かした場合、高温でも少しずつなら服用できます。

溶かさずにお湯と漢方薬を口に入れて飲む場合、一気に多くのお湯を含んで飲む必要があるため、同じ温度でもやけどをしてしまうため服用は難しいです。

溶かす方がより温かいまま飲めることになるため、カゼの初期や冷え症で体を温める目的で使われる漢方薬は、お湯に溶かしてなるべく温かい状態(やけどしない程度に)で飲むのが良いかもしれません。

ただ、粉薬のまま漢方薬を飲んだ後に温かいお湯を飲んでも同じような効果は得られると思われるため、この理由で無理に溶かして飲む必要はありません。

思い込み(プラセボ効果)

薬効成分が入っていないのに効くと信じて飲めば本当に効く。こんな不思議なことが人間の体に起こることがあります。

これをプラセボ効果と言います。

プラセボ(placebo)とは薬効成分が入っていない偽薬のことです。プラシーボとも呼ばれます。

プラセボ効果は30-40%の人に見られることもあると大学の講義で聞いた記憶があります。なお患者さんと処方側の信頼関係も大きく影響すると言われています。

漢方薬も、「溶かした方が効き目がある」「味や香りを良く感じられるので効いている感じがする」と思うことが、効き目をより良くする可能性はあります。

大切なのは問題なく服用できること

冒頭でも書いた通り、私は溶かして飲んでいただくようお伝えしていたこともありますが、今はどちらでも良いと答えています。

その理由は、無理なく飲んでいただくことが大切だからです。

もちろん溶かして問題なくお飲みいただけるのにこしたことはありません。

しかし、溶かすのは毎回手間がかかることや、漢方薬に慣れてない方やお子様は、溶かした時の独特の香りや味が飲みづらいと感じることも少ないことがあります。

この場合は白湯か常温の水で直接ぐいっと飲んでいただくようにお願いしています。なお極端に冷たい水は胃腸に負担がかかる可能性がありせめて常温の水が良いです。

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例外として一部の漢方薬は溶かす方がよいものがある

漢方薬の中には口腔内に直接作用させるためにお湯に溶かした後に冷ましてから飲む漢方薬があります。

・桔梗湯や立効散
喉や口腔内の炎症への直接作用を期待して、お湯に溶いた後に冷まして口の中に行きわたるように飲みます。

・半夏瀉心湯や黄連解毒湯
口内炎等の局所の炎症を鎮めるのに上の漢方薬と同じように使われることもあります。

・小半夏加茯苓湯や半夏厚朴湯
つわりでは一度に多く飲めないことも多く、冷やして少しずつ飲む方法があります。

(参考)お湯に溶かすときの注意点

お湯に溶かすときは次のどちらかでされていることが多いと思います。

①コップに漢方薬を入れて熱湯を注ぐ
②コップに漢方薬と水をいれて電子レンジで温める

その後スプーン等でかき混ぜて溶かします。

ただし②の電子レンジで温める方法については、電子レンジのマイクロ波によって一部の生薬の成分変化が起こる可能性が報告されています。

できるのなら①の方法か、水をレンジで温めた後に漢方薬を溶かし入れる方法が良いのかもしれません。

ただし煎じ薬は電子レンジで温めていただくように指導しており、問題なく効果が出ているので、電子レンジがどこまで効能に影響があるのかは詳しいことは分かりません。

溶けにくい漢方薬

余談ですが、漢方薬の中には溶けにくいものがあります。

今のところ個人的に感じているものは小青竜湯です。お湯に入れてもなかなか溶けません。

他にもあれば随時追記していきたいと思います。

まとめ:溶かしても溶かさなくても無理なく飲めれば良い

漢方薬をお湯に溶かして飲む方が良いかどうかについては、溶かしても溶かさなくてもどちらでも構いません。

たしかに溶かして飲む方が効果は高くなる可能性がありますが、きちんとした根拠があるわけでもなく、それよりも無理なく飲んでいただくのが一番大切です。

ただし一部の漢方薬には溶かした後に冷やして飲む漢方薬もあるので、不明点があれば処方元や販売元に確認しましょう。

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