メーカーによる漢方薬の違い

漢方薬のメーカーといえば「ツムラ」や「クラシエ」が思いつく方がほとんどではないでしょうか。

私が保険調剤薬局に勤めていた時も、ほとんどの薬局がツムラかクラシエを在庫し、他のメーカーをまれに見る程度でした。

一方、漢方薬局ではコタロー(小太郎漢方製薬)や東洋薬行、大杉製薬といった調剤薬局ではマイナーと言えるメーカーを取り扱っているところも多いです。

これらのメーカーの漢方薬はどう違うのか。いくつかの視点で書いてみたいと思います。

目次

各メーカーの特徴

ツムラ

ツムラホームページによると、病院で処方される医療用漢方製剤(病院で処方される漢方薬)のツムラのシェアは8割以上と圧倒的シェアを持っています。

漢方専業メーカーでは唯一、株式上場している企業です。

パッケージにも特徴があり、医療用漢方は下一桁の番号によって色分けされ、取り間違い等のミスが起こりにくいように配慮されています。

また大部分の漢方薬が1包が2.5gに統一されているため、処方側や調剤側にとって量の計算がしやすく扱いやすいと考えられます。

なお、ドラッグストアなどで販売されている一般用漢方製剤は、一部を除き医療用の半分の量(1/2量)で作られています。

株式会社ツムラ

クラシエ

クラシエは一般用漢方製剤(市販漢方薬)のシェア1の企業です。

医療用漢方製剤ではツムラの次で2位となっています。

形状は細粒状です。そのため、さっと白湯に溶かすことが可能だったり、顆粒のように歯茎に挟まって痛みを感じることはありません。

クラシエの医療用漢方製剤は、1日3回と1日2回タイプが用意されているのが特徴です。

1日2回タイプ

1日3回タイプ

(引用元:クラシエ 医療用漢方製剤 製品情報)

1日3回タイプだと、飲み忘れが増えることが多いため、1日2回にすることで利便性が良くなり飲み忘れを防ぐことにつながります。ただし1回服用量は多くなります。

また、パッケージがスティック状のため飲む時にこぼしにくくなっています。

粉薬が苦手な人向けに錠剤や丸剤も一部用意されています。

クラシエ株式会社

小太郎漢方製薬

漢方エキス製剤を初めて商品化したメーカーです。

「コタロー」のブランドで展開しています。

エキス剤の作り方にこだわっており、コタローの漢方薬のエキス抽出量は他のメーカーよりも多くなっているものがほとんどです。

粉薬の形状は細粒です。

また一部の漢方薬で医療用カプセル剤を作っています。

市販薬の匙倶楽部商品は、他のメーカーからは販売されていないユニークな処方を取り揃えておりしており漢方薬局にとって幅が広がるので助かっています。

また匙倶楽部商品は添加物に乳糖を使っていないため、乳糖不耐症の方がお求めになることも時々あります(小太郎の医療用漢方は乳糖使用)。

【匙倶楽部商品の例】

また市販薬の協力会専売品では約60種類の漢方錠剤が用意されています。

小太郎漢方製薬株式会社

大杉製薬

大杉製薬は「オースギ」ブランドで医療用、一般用を販売しています。

グループ企業に生薬メーカーの高砂薬業があり、原料となる生薬選びからこだわって漢方薬が作られています。

なかでも、約60種類ある一般用漢方薬のほとんどが満量処方として作られているのが特徴です。
作り方も医療用と一般用は同じでパッケージだけが異なるようです。

大杉製薬株式会社

東洋薬行

東洋薬行(とうようやっこう)は、医療用と一般用が販売されています。

東洋薬行の特徴は原典に忠実な材料を使って作っている漢方薬が多いことです。
たとえば桂枝湯は桂皮ではなく桂枝を使ったり、生姜は生のしょうがを使ったりしています。

また一般用漢方薬はほぼ満量処方で、しかも医療用漢方薬よりもグラムあたりの濃度が高いのも特徴です。
たとえば医療用の五苓散は1日6gに対し一般用の五苓散[勝昌]では4.5gに相当します。

東洋薬行の漢方薬を作っているメーカーは台湾に2つあり、ほとんどを勝昌(しょうしょう)というメーカー作っています。

医療用漢方薬の500gボトル、一般用漢方薬…勝昌

医療用漢方薬の分包品の一部…もう一つの別メーカー

このように医療用漢方薬についてはボトルと分包品で製造元が異なっています。
ただし使ってる生薬の分量などは同じのため表記上は区別はされていません。

添加物にも特徴があり、東洋薬行では医療用も一般用も基本的にトウモロコシデンプン1種類しか使われていません。
そのため乳糖不耐症の方にも安心して使えるものとなっています。

株式会社東洋薬行

三和生薬

三和生薬は附子剤に力を入れています。

附子とは体を温めたり体の余計な水を取り除いたりする生薬で、体を温めるエネルギーが不足している陽虚証に使われることが多いです。

附子の粉末を錠剤にした製品を販売したり、一般用漢方薬でもサンワロンシリーズで附子配合剤をいくつか出しています。

【三和生薬の漢方薬の例】

三和生薬株式会社

生薬の分量や種類の違い

漢方薬はメーカーによって使用する生薬の分量や種類が異なるものが多いです。

医療用のエキス剤の1日分に使われている生薬について例をあげて比較してみます。

【葛根湯エキス剤(医療用)】(g)

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葛根麻黄大棗桂皮桂枝芍薬甘草生姜生生姜
ツムラ4332222
クラシエ8443321
コタロー4432221
オースギ4332221
東洋薬行4332223
三和生薬4332221

【五苓散エキス剤(医療用)】(g)

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沢瀉猪苓茯苓蒼朮白朮桂皮桂枝
ツムラ43331.5
クラシエ53332
コタロー64.54.54.52.5
東洋薬行53332
三和生薬64.54.54.53

【竜胆瀉肝湯(医療用)】(g)

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当帰地黄木通黄芩沢瀉車前子竜胆山梔子甘草芍薬川芎黄連黄芩連翹薄荷浜防風
ツムラ555333111
コタロー1.51.51.51.521.521.51.51.51.51.51.51.51.51.5
東洋薬行5553331.51.51.5

同じ漢方薬名でもメーカーによって結構差があることがわかります。

とくに竜胆瀉肝湯はコタローだけ別の原典を元に作っているため生薬構成がかなり異なります。

このようなことから、漢方に詳しい医師や漢方薬局では構成内容から使い分けをすることも少なくありません。

たとえばクラシエの葛根湯は葛根が他よりも倍量入っており、とくに首筋の凝りにはこちらを優先的に使うケースもあります。

またツムラの五苓散は白朮ではなく蒼朮を使っており、白朮が健脾(胃腸の働きを助ける)作用のによって余分な水をさばくのに対し、蒼朮は直接的に水をさばく働きが強いため、胃腸の虚弱の有無によっても使い分ける可能性があります。

同じ名前の漢方薬でもメーカーによって量や使っている生薬が違うことが少なくないため内容もしっかり見ておく必要があります。

下の記事では同じ名前の漢方薬について、病院から処方された医療用漢方薬と市販の一般用漢方薬の違いを説明していますので併せてお読みいただければと思います。

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