多汗症と漢方

汗をかきやすいかどうかというのは、漢方ではとても大事な情報の一つです。

多汗症の方でなくとも当店でも漢方相談の時は必ず確認しています。

汗のかき方には色々あります。

  • どういう時(動いたときに良く出るなど)
  • 時間帯(日中、寝ている間)
  • 部位(頭、手足…)

これらの情報は漢方的に原因を分析するのに大切です。

目次

多汗症とは

多汗症は少し動いただけで汗をかいてしまう病気です。

他の人よりも汗をかきやすく、衣服や髪が汗ですぐ濡れるなど通常の生活に支障が出ることもあります。

多汗症とはどんな病気ですか? 

多汗症には全身に汗が増加する全身性多汗症と体の一部に汗が増える局所多汗症があります。全身性多汗症には特に原因のない原発性と感染症、内分泌代謝異常や神経疾患に合併するものがあります。局所多汗症も原因のわからない原発性と外傷や腫瘍などの神経障害による局所性多汗症があります。原発性局所多汗症では手のひら、足のうらや脇という限局した部位から両側に過剰な発汗を認める疾患です

日本皮膚科学会 ホームページより

西洋医学では、多汗症の原因が腫瘍などのように分かっているようであれば取り除くことで対応できますが、精神的な原因のものや原因不明のものでは、対症療法に頼るしかありません。

漢方では、汗をかく原因を証として捉えることができるので、証に合う漢方薬を使えば症状を軽減できる可能性があります。

自汗と盗汗

漢方では、日中いつもかく汗を自汗(じかん)と言います。自汗の方は動くとさらに発汗がひどくなります。

寝ている間だけにかく汗は、盗汗(とうかん)と言います。盗賊がこっそりと物を盗むように、人が寝ている間にこっそりと出ることからこの名前が付けられています。

自汗の原因と漢方薬

自汗の多くは、虚弱体質、病気によって体力を消耗、咳の慢性化などによって、気虚(肺気虚弱・衛陽不固)となり発症します。

他に営衛不和・陽虚・湿熱などによっても起こります。

気虚

虚弱体質であったり慢性的な咳が続いたりすると肺気が不足しやすくなります。

肺気が不足すると肺の宣発機能が弱まり、汗腺の開閉を調整する衛気(えき)を体表までうまく送ることができません。

また虚弱体質では衛気そのもの産生量が少なくなります。

これらにより汗が出やすくなります。

主な症状:動くとすぐ汗をかく、かぜをひきやすい、疲れやすい、顔色に艶がない、舌の周囲に歯の形が付いている

漢方薬:玉屏風散、防已黄耆湯など

陽虚

冷え性(陽虚)であったり苦寒剤の誤用などによって体の陽気が減っている状態です。

上記の気虚の症状に加えて、冷えの症状が現れます。

漢方薬:玉屏風散+附子剤など

営衛不和

脈の中を巡る営気(えいき)と脈外を巡る衛気(えき)は、互いに陰陽の関係で絶えずバランスを取っています。

虚弱体質、あるいは長期の不眠、風邪などが原因となり、陰陽のバランスが崩れると営衛不和(えいえふわ)となり、営気と衛気がうまく機能せず汗が出ます。

主な症状:悪風、全身の筋肉がだるく痛む、ときどき冷えや発熱

漢方薬:桂枝湯など

湿熱

湿邪が熱を持つと湿熱となり、湿熱が体内に増えると汗が出ます。

腋臭(わきが)の方はこの湿熱証が多いようです。

主な症状:汗が粘る、汗で服が黄色く染まる、顔色が赤い、口が苦い、皮膚の熱感、尿が黄赤色、舌苔が黄色い

漢方薬:竜胆瀉肝湯など

盗汗の原因と漢方薬

盗汗の原因は主に陰虚内熱によるものです。

陰液(津液や血)が不足すると、体の熱を冷ますことができず体が熱を持ち、汗をかくようになります。

主な症状:手のひらと足裏のほてり、午後の定時に発熱、両頬が赤い、口が乾く、喉が渇く、舌が赤い、舌苔が少ない

漢方薬:六味丸など

発汗部位別の証と漢方薬

発汗部位も証の把握に役立つことがあります。

以下専門的な言葉になりますが並べておきます。

上焦熱盛→防風通聖散

湿熱→竜胆瀉肝湯、平胃散+竹筎温胆湯

瘀血→桃核承気湯

気虚・血虚→玉屏風散

虚陽上浮(上熱下寒)→八味地黄丸、桂枝加竜骨牡蛎湯加附子

半身

左右半身:
気血不足→十全大補湯
寒湿:→疎経活血湯合五苓散

下半身:
陰虚内熱→知柏地黄丸
腎陽虚→八味地黄丸

手のひら・足底

陽明病→大承気湯

中焦湿熱→茵陳五苓散

下焦湿熱→竜胆瀉肝湯

脾虚→六君子湯

陰虚→麦門冬湯、三物黄芩湯

胸部

心気虚→桂枝加竜骨牡蛎湯+人参湯

心陰虚→炙甘草湯、天王補心丸

参考書籍

実践東洋医学[第1巻診断扁](東洋学術出版社)
改訂版中医基本用語辞典(東洋学術出版社)
問診のすすめ-中医診断力を高める(東洋学術出版社)
・中医基礎理論(上海科学技術出版社)

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